「テルマとルイーズ」と私─「夢」に気づかせてくれた、テルマのファッション

みなさんは、夢ってありますか?周りの友達が、将来について話すのを聞いて焦っている人、小さいころからなりたいものが決まっている人……もしかしたら家業を継ぐ予定がある、なんて人も居るかもしれません。今回のテーマは incubation(孵化)。私の夢が生まれたできごとについてお話しします。

私は昔から飽きっぽく、将来の夢が頻繁に更新される子供でした。保育士、メイクア ップアーティスト、翻訳家、図書館司書、雑誌のライターなど、数えればきりがありません。しかし、高校時代に1本の映画と出会ったことで、揺らぐことのない目標ができたのです。

その映画とは、「テルマ&ルイーズ」という、1991年にアメリカで公開されたもの。 田舎の高校に通っていた私は、近くのショッピングモールやファストフード店くらいしか時間をつぶすところがなく、どこに行くのも飽きて、暇を持て余す毎日を送っていました。そこで、近くのレンタルビデオ店に入ったとき「映画でも見てみるか」と 気まぐれで手に取ったのが、この作品でした。


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あらすじは、親友のテルマとルイーズが旅行中にトラブルに巻き込まれて殺人を犯してしまい、2人で逃げるというロードムービーです。映画を見て、終盤でふと気が付いたことがありました。

「テルマの服装が最初と全然違う!」

そこで、巻き戻してシーンごと衣装をチェックしてみることにしました。

登場シーンでは、白いオフショルダーのフリルワンピースで、羽織っているのがパール付きのフェミニンなGジャン。このころのテルマは、夫に家政婦のように扱われ、男に襲われ、自分を持てず、言いなりになるしかない……というような、頼りない印象でした。

しかし、生活が変わるとともに、服装もだんだんと変化していきます。親友ルイーズとの逃避行中、JDというヒッチハイカーに出会い、彼と一夜を共にしたテルマの服装は、JDとおそろいのデニムのジャケットにジーンズというスタイルになっていました。ここでは、テルマの影響されやすさや、男性に対する依存度の高さが表れています。

しかしこの後、JDに逃亡費を持ち逃げされてしまい、お金に困ったテルマはスーパーマーケットで強盗を働くことに!これ以降、彼女の服装はどんどんマニッシュになります。

終盤では車で移動中、トラック運転手に下品な言葉をかけられ、謝罪を求めても応じない彼にキレてトラックを銃撃し、爆破。このときの服装は、黒いガイコツのTシャツにサングラス、ジーンズでした。髪型もふわふわパーマではなく、ひとつ結び。そして、この服装のまま警察に追われて、崖から車ごとダイブするラストシーンまで駆け抜けます。

全体を見直してみると、衣装でテルマの変化がうまく描かれていることに気づきます。夫に従うしかなかった気弱な女性ではなく、自分の思い通りに行動できるようになった彼女の変化がよくわかりました。

そこから私は、この衣装の変化をノートにまとめ、衣装担当者を調べ、他の映画も観てはまとめ……と、だんだん映画と衣装の世界にのめりこんでいきました。

映画と衣装について調べるなかで、ふと気が付いたのが自分の趣味でした。もともと、映画や漫画に出てきたレシピを再現したり、主人公と似た服装をしてみたり、ロケ地に行ってみたり、物語の世界に入り込むのが好きだったのです。そして、図工の授業や手芸クラブでの活動など、ものを作るのも小さな頃から好きでした。

このふたつを、同時にかなえられる仕事と考えたとき、もうこれは衣装制作しかない!という答えにたどりついたのです。衣装を通して、観客を物語の中に引きこみたいと、強く感じました。新しい夢が生まれた瞬間でした。そして、この夢は5年たった今でも変わらず、最長記録を更新し続けています。